切りキズ、すりキズの症状

・切りキズ(切創)
ナイフやガラスの破片など、鋭く切れるものが皮膚にくい込んでできるキズです。キズのふちが平らで、大きく裂けています。

・すりキズ(擦過傷)
転んでひざをすりむいたときなど、ザラザラしたものが皮膚をかすることでできるキズです。軽い場合は、表皮や真皮の途中までがこすり取られ、皮下組織は無傷。
点状の出血が特徴です。

 

▲切りキズのイメージ

▲すりキズのイメージ

キズが治るメカニズムは?
治るまでにどのくらいかかる?

【キズが治るメカニズム】
ケガをしても、軽いキズであれば、しばらくすると治りますが、これは皮膚に自然治癒力が備わっているためです。皮膚がキズつき、その機能が低下すると、「修復せよ」という指令が出て、新しい細胞がどんどん作られ、再生・修復されていきます。体がキズを治していく過程は、炎症期、増殖期、成熟期の3つに分けられます。

お風呂・プールの注意点

日常的なすりキズ程度であれば、お風呂やプールに入っても構いませんが、キズが水に触れると痛みを感じることもあるので、気になる場合は防水性の高いばんそうこうを貼ると良いでしょう。ただし、長時間水に入ることで、ばんそうこうがはがれてきたり、皮膚がふやけてきたりした場合は、水から出た後に必ず水道水でキズとキズのまわりをしっかりと洗浄し、新しいばんそうこうに貼り替えるようにしてください。

切りキズ・すりキズが引き起こす疾患

切りキズやすりキズを負った後、キズ口を洗わずに放っておくと、そこから細菌が入り、時に重篤な疾患に繋がることがあります。例として、以下のような疾患が挙げられます。
*以下のような症状がなくても、キズを負った後に気になることがあれば、早めに病院へ行くようにしてください。

・破傷風(はしょうふう)
キズ口から侵入した破傷風菌が産生する毒素によって引き起こされる疾患です。破傷風菌は土壌中や動物のフンなどに存在しており、キズ口から侵入すると神経系に働きかける毒素を放出します。これにより、筋肉のこわばりや痙攣などの症状を引き起こすことがあります。

・蜂窩織炎(ほうかしきえん)
皮膚が割れた部分、キズついた部分から連鎖球菌、ブドウ球菌が侵入して発生する疾患です。主に下肢に起こることが多く、症状としては、腫れ、疼痛、発熱、だるさなどが挙げられます。

切りキズ・すりキズの対処

キズが早くきれいに治るかどうかは、キズができてすぐに行う以下の4ステップのケア次第です。病院へ行く場合は、できればステップ2(②トリート)までの応急処置を行ないましょう。
キズケアのステップは、①クリーン(洗浄)、②トリート(処置)、③プロテクト(保護)、④フォローアップ(経過観察)の4段階に分けられます。

①クリーン(洗浄)

水道の流水か生理食塩水でキズ口を洗い、異物や菌を取り除きます。砂や小石などが入っていて、水だけで流せないときは、清潔な布やガーゼ、めん棒などで取り除きます。

②トリート(処置)

出血を伴う場合は、清潔なタオルやティッシュペーパーなどでキズ口を押さえ、血を止めます。このとき、キズ口にタオルやティッシュの繊維など、異物がついていないことを確認しましょう。2~3分おさえても血が止まらない場合は病院へ行きましょう。

③プロテクト(保護)

救急ばんそうこうなどを、キズ口の端までしっかり貼ってキズを保護します。
※より早く、きれいに治したい場合は、治癒タイプのばんそうこうがおすすめです。モイストヒーリングの考え方を取り入れ、皮膚の回復に適した環境を整えるので、かさぶたを作らず、早くきれいにキズを治します。

④フォローアップ(経過観察)

新しい皮膚が再生され、キズ口がふさがるまで経過を観察します。このとき、キズに膿や腫れ、臭いがないかを確認します。救急ばんそうこうなどが濡れたりはがれたりしてしまったら、キズとキズの周りをよく洗い、新しいものに貼り替えます。

「モイストヒーリング(湿潤療法)」
によるキズの手当て

 

ひと昔前は、「キズは消毒して、乾かして、かさぶたを作って治す」というドライヒーリングの考え方が主流でした。しかし近年では、ヒトが生来持っている自然治癒力に着目した、「キズをしっかり覆い、潤い(体液)を保ってきれいに治す」、モイストヒーリングというキズケアが一般的になってきています。

キズを負うと、キズ口から体液(滲出液)が浸み出してきます。この中には、キズ口の異物や雑菌、不要となった組織を排除するための因子、またキズをきれいに治すための因子などが含まれています。モイストヒーリングでは、キズを治すための成分が含まれた体液(滲出液)でキズ口が覆われるため、体液を拭き取ったり、ガーゼに吸わせて乾燥させてしまったりするよりも、治癒のスピードは比較的早くなります。

また、キズが早く治る以外にも、乾燥を防ぐことにより痛みを軽減することができたり、かさぶたを作らないことでキズあとが残りにくくなったりすることも、モイストヒーリングのメリットです。

病院に行った方が良いキズについて

キズが浅い場合には、ご家庭でもキズのケアが可能ですが、以下のような場合には病院に行くようにしてください。

・切りキズが深い場合(神経や筋肉なども損傷を受けている可能性がある)
・すりキズが深い、または範囲が広い場合
・家具や壁にぶつけたギザギザのキズ
・ガラスや木片などが刺さったキズ
・砂や衣服の繊維などの異物が入ったキズ
・2~3分経っても血が止まらないキズ
・動物に噛まれたキズ
・広い範囲にわたるキズ
・受症原因がわからないキズ
・その他、異変を感じたり、心配があるとき

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監修:市岡 滋(いちおか しげる)先生

 

<現職>
埼玉医科大学形成外科教授

<略歴>
1988年 千葉大学医学部卒業、東京大学形成外科入局、
大学および関連病院で臨床を研鑽
1993~1997年 東京大学大学院(博士課程)にて創傷治癒の基礎研究
1998年 埼玉医科大学講師
2000年 埼玉医科大学助教授
2007年 埼玉医科大学教授
2020年 埼玉医科大学病院 副院長

 

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参考文献
正しいキズケア推進委員会「正しいキズケアブック1」
正しいキズケア推進委員会「正しいキズケアブック2」
Mayo Clinic, “Tetanus” (2019),
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/tetanus/symptoms-causes/s...
Mayo Clinic, “Cellulitis” (2020),
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/cellulitis/symptoms-cause...